RECORD2011 of YSM-SPIP

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YSM-SPIP2011

この度の東日本大震災の影響により中止となることが決定いたしました.
しかし,発展的会合である情報統計力学の最前線-情報と揺らぎの制御の物理学を目指して-が京都基礎物理学研究所にて開かれる事から準備会的にYSM-SPIP2011Kansaiをinformalに開きました.
当日の様子を以下の資料でご覧ください.

Abstracts

注)以下の資料はYSM-SPIP2011Tokyoでの予稿集です.
安田宗樹 ”ボルツマンマシンと情報統計力学”
林愛空
竹田晃人 ”圧縮センシングと統計力学”
後藤拓馬 ”スピンモデルを用いた単語の感情極性抽出における 精度改善法”
迫田和之 ”SPS におけるパイロット信号の高精度到来方向推定 の評価”
渡辺駿介 ”Cavity 法による相互依存型ネットワークの解析”
中島哲也 ”スピングラス模型における平均場方程式の解空間”
坂田綾香 ”断熱的二温度系の疎結合スピングラス模型における ネットワーク構造”
太田洋輝 ”Bethe格子上Edwards-Anderson模型のGlauber動力学”
根本孝裕 ”カレントのキュムラント母関数と熱力学関数”
松田佳希 ”ランダムグラフ上の±J 模型におけるスピングラス相境界”
宮崎涼二 ”横磁場Ising模型に対する実空間くりこみ群”
勝田仁之 ”エネルギー制御系におけるJarzynski等式–その理論と応用”
関 優也 ”強磁性pスピン模型の基底状態探索問題における 量子アニーリングの効率化”
長内淳樹 ”量子Ghatak-Sherrington模型の相転移”
小渕智之 ”反強磁性三角格子上 XY モデルの二種類の相転移と そのユニバーサリティークラス”
松下勝義 ”タンパク質の変性状態を生み出す競合効果”
北島顕正 ”グラフオートマトン ~自発的に自由度を変化させる力学系~”
白井伸宙 ”格子ガスモデルを用いたタンパク質 結合プロセスの熱力学的解析”
大関真之 ”機械学習に隠されたJarzynski等式”
杉山友規 ”Ito 過程に従う多体模型の熱力学極限 ”
諏訪秀麿 ”詳細つりあいを満たさないマルコフ連鎖モンテカルロ法”
泉田勇輝 ”線形不可逆熱機関における最適化: 最大仕事率時の効率”
森 立平 ”Connection between Free Energy and Belief Propagation on Random Factor Graph Ensembles”

Program 03.24

10:45-11:00 LinkIconOpening Address:小渕 智之
10:00-11:00 Morning Session 座長:大関 真之
11:00-11:30 小渕 智之:
LinkIcon反強磁性三角格子上 XY モデルの二種類の相転移と そのユニバーサリティークラス
11:30-12:10 森 立平:
LinkIconConnection between Free Energy and Belief Propagation on Random Factor Graph Ensembles

12:10-14:00 昼休み

14:00-15:00 Afternoon Session I 座長:杉山 友規
14:00-14:30 大関 真之:
LinkIcon学習理論に隠されたJarzynski等式
14:30-15:10 北島 顕正:
LinkIconグラフオートマトン ~自発的に自由度を変化させる力学系~

15:10-15:30 休憩

15:30-16:30 Afternoon Session II 座長:小渕 智之
15:30-16:00 松下 勝義:
LinkIconタンパク質の変性状態を生み出す競合効果
16:00-16:30 白井 伸宙:
LinkIcon格子ガスモデルを用いたタンパク質 結合プロセスの熱力学的解析

16:30-16:50 休憩

16:50-17:20 Afternoon Session III 座長:松下 勝義
16:50-17:20 杉山 友規:
LinkIconIto過程に従う多体模型の熱力学極限
17:20-17:50 LinkIconClosing and about next:大関 真之

KeyWords

圧縮センシング

近年注目されている原情報の疎性を利用したデータ圧縮・復元に関する枠組みである。その性能については情報理論の立場から研究が行われているが、統計物理学的解析が可能であることが近年指摘されている。

単語の感情極性

自然言語の単語が人間にとってポジティブな感情を表した単語なのか,ネガティブな感情を表した単語なのかを表現する指標. 

評価表現辞書

単語の感情極性とその単語の対の集合.実文章の評判分析などに用いられる.

相互ネットワークパーコレーション

2つのネットワークがあり、片方における各ノードがもう片方におけるノード各ノードに依存しているようなネットワーク。現実世界ではインフラネットワークなどにみられる。ランダムグラフにおけるクラスタ(サイトがつながって出来る集団)の数と性質を記述する理論。代表的な問題として、一つのサイトがある確率pで存在するとき、サイズが無限大のクラスタは存在するか、またその時のpの値はどのようになるか(pの閾値)がある。

キャビティ法

平均場的解析の一つ。通常Bethe-Peierls法と呼ばれる近似手法のことであり、近年、情報理論との関係もあいまって注目されてきている。特に、この枠組みから導出される確率推論アルゴリズムであるBelief Propagationとの関連や、レプリカ対称性の破れを考慮しているとされている1RSB cavity methodなどへの発展がある。お手軽に計算でき、かつ非自明な結果が得られるということで、結構人気がある(と思う)。

assortativity

assortativityとは、複雑ネットワークにおける正の次数相関を意味する。現実に存在するほとんどのネットワークは次数相関が負の,disassortativeなネットワークであるが、共著者ネットワークなどの一部のネットワークは、assortativeであることが知られている。

集団動力学

多体系の各要素とそれらの相互作用からすぐには理解できない現象は、集団現象と呼ばれることがある。特に動力学に焦点を当てる場合は、集団動力学と呼ばれることがある。例としては、動的臨界現象、エイジング動力学、同期現象などが挙げられる。

大偏差関数

確率変数の相加平均の分散は、一般に平均数が増えると小さくなり、その結果、その相加平均はほとんど期待値と同じ値しか値を取らなくなる(大数の法則)。このとき、まれに起こるゆらぎによって、その相加平均は期待値からずれることがあるが、そのずれを記述する関数が大偏差関数である。平衡統計力学においては、物理量の空間平均の大偏差関数が熱力学関数に対応する。

横磁場Ising模型

古典Ising模型に横方向の磁場(スピンのz成分どうしが相互作用しているならx方向の磁場)をかけた模型で、最も単純な量子スピン系。横磁場が量子ゆらぎを生み、それによって相転移と臨界現象が起こる。1次元高い古典Ising模型と等価であるという特徴があるため、扱いやすく、古典スピン系の理論の量子スピン系への応用の第一歩目として用いられる。

量子相転移

古典的な相転移は熱揺らぎによって引き起こされるため,多くの場合スピンのミクロな量子性は相転移の詳細に大きな影響を及ぼさない。一方で,低温では量子揺らぎが有意となり,温度0であっても量子揺らぎによる相転移が起きる。このような相転移を量子相転移という。 潜熱を伴う相転移。エネルギーやエントロピーの不連続な跳びが観測される。転移点直上では,複数の状態が安定に存在する共存状態が実現されている。

Jarzynski等式

非平衡過程における物理量と、平衡状態での物理量の間に成り立つ厳密な関係式。"仕事の統計"によって非平衡過程から平衡状態の情報を引き出している。ゆらぎの定理や熱力学第二法則とも深く関連している。

量子アニーリング

量子アニーリングは組み合わせ最適化問題を解くための量子アルゴリズムである。古典アルゴリズムよりも高速で解を見つけられる例が報告されており,最適化問題の新しい解法として注目されている。

カイラリティ

フラストレーションが系に内在するとき、低温の秩序状態でベクトルスピン系は平行、反平行のいずれのスピン配位も取らないことが多い。そのため、スピン系は幾つかのスピンから成る立体構造(あるいは平面構造)を獲得し、結果、右手系か左手系かの対称性を破ることが多い。その対称性の破れに共役な物理量がカイラリティである。

タンパク質

生体内で生体構造物や酵素、情報伝達、物質輸送などの機能を担い、生命活動を維持しているアミノ酸重合体。

折りたたみ

タンパク質が機能を発揮するためには特定の立体構造を取る必要がある。折りたたみとは、そのタンパク質の立体構造形成のことで、生物物理分野において基本的な研究対象の一つである。

タンパク質の粗視化模型

主にタンパク質を各アミノ酸残基ごとに自由度を設定し、その折りたたみの性質を計算しやすくした模型。様々な模型が考案されている。

グラフオートマトン

セルの数とセル間の結びつきを動的に変化させながら時間発展するセルオートマトンの一種。ダイナミクスを局所的にしか定義しなくとも、自己複製したりユニバーサルチューリングマシンを構成したり、大域的に面白い振る舞いを見せる。

天然変性タンパク質

そのアミノ酸配列によってそれぞれに三次元的な構造を取ることができ、構造はそのタンパク質の機能を決めると考えられてきた。このタンパク質に関する常識を打ち破ったのが天然変性タンパク質 (IDP) である。IDPは構造を持たないにも関わらずシグナル伝達等の機能を果たすことができる。このような機能を実現する鍵となるのがターゲット分子の存在であり、ターゲット分子の存在下でIDPはある形に折れ畳んで結合する。このように構造を持たない変性状態と構造をもつ状態がIDPの機能や性質を多様にしていると考えられており、理論・実験ともに研究が盛んに行われている。(Intrinsically Disordered Protein, IDP)

Curzon-Ahlborn(CA)効率

1975年にCurzonとAhlbornによって、有限時間で動作する熱機関の最大仕事率時の効率として提案された。Carnot効率と同様に作業物質の種類や熱機関の詳細に依存せずに、熱源の温度のみで値が定まる。その普遍性をめぐって、近年、非平衡統計力学・熱力学な観点から新たな注目を集めている

マルコフ連鎖モンテカルロ法

汎用数値積分法として現在広く用いられているマルコフ連鎖モンテカルロ法は、手法の発明以来詳細つりあい条件の枠の中で発展を続けてきた。しかし、詳細つりあいは必要条件ではない。我々は最近、この条件を満たさずとも正しいサンプリングを可能とする新しいアルゴリズムを考案した。このアルゴリズムは遷移先状態候補が与えられたとき、平均棄却率をいつでも最小化し、現在用いられているほぼ全てのマルコフ連鎖モンテカルロ法を改良することができる。

ファクターグラフ

変数ノードとファクターノードからなる2部グラフで確率分布を定義するもの。グラフで確率分布を表現する利点としてメッセージパッシングアルゴリズムがある。これはメッセージを枝を介して送り合うことで確率分布を近似する手法である。 

ベーテ自由エネルギー

ファクターグラフで定義される確率分布の近似手法であるベーテ近似に対してギブス自由エネルギーを変形したもの。通常ベーテ自由エネルギーを最小化するようなベーテ近似が良いとされ、その最小値はヘルムホルツ自由エネルギーの近似となる。 

Belief propagation (BP)

本来は木であるファクターグラフ上で変数の周辺確率を計算するためのメッセージパッシングアルゴリズム。一方でベーテ自由エネルギーの最小化問題のラグランジアンの停留点の条件はBPの不動点の満たすべき条件と等価である。