Duality analysis and its application: bond percolation
Masayuki Ohzeki
Subimitted to Phys. Rev. E
e-arXiv:cond-mat/1211.1521
オーストリアの空の下思いついた結果.
双対変換応用編.
これまでスピングラス系の応用を念頭に理論として組み上げてきた繰り込み双対変換.
その新展開である.
古くから知られるパーコレーションと呼ばれる感染症や森林火災などの簡単な数理模型が見せる相転移現象が起こる転移点に関する厳密解を繰り込み双対変換から導出したという話.
解公式自体はいくつかの状況証拠とともに予想、および検証されてきたが、その厳密性に関する議論を繰り込み双対変換によって行った.
繰り込みとあるように解析するスケールを大きくとることによって、漸近的に厳密解に近づく理論であるが、小さなスケールからすでに固定点が見えていて、その固定点が転移点公式に相当していることがわかった.物理としても美しいし、結果としても非自明.
また異方性のあるPotts模型の解析に応用したということで、スピングラス模型以外でも繰り込み双対変換が有効であることを示した一例ともなっている.
Robert M. Ziffが熱心にコメントや議論をしてくれたおかげで、モチベーションはおろか理解も深まり、一気に仕上げることが出来た.
実は修士課程からPotts模型、パーコレーションの問題というとZiffさんの論文が引っかかったことから非常に気になる存在の人だったが、この成果で憧れの人と急接近することとなって感慨深い.個人的にF. Y. Wuさんともやり取りをしており、特集号には遅れたものの彼の大きな貢献の一部としてささげたい.
Duality analysis on random planar lattice
Masayuki Ohzeki, and Keisuke Fujii
Phys. Rev. E 86, 051121 (2012)
e-arXiv:cond-mat/1209.3500
オーストリア出張中にWu大先生からメールが来たのが印象的阪大の藤井啓祐氏との共同研究第ニ弾.
正方格子などの自己双対格子からランダムにボンドを抜き取る、これは希釈と呼ばれて従来より扱われてきた問題である.そこにさらに、ランダムに隣接するサイトをくっつけてひとつにまとめるという操作を導入する.これは丁度希釈に対して双対な操作となっている.
このようなランダムさを規則的に導入すると、三角格子と六角格子を極限にもち、それらを連続的に繋げるランダム格子を構成することが出来る.
三角格子と六角格子の双対性は星・三角変換と組み合わせる必要がある事が知られているが、上記のランダムな操作のもとでの正方格子上での双対変換により、その転移点を導出する事ができることがわかった.この今まで知られていなかった性質を活用して、見た目にはどうにも手をつけられそうにもない形をしたランダムな格子について系統的に転移点を調べ上げた.
この格子上での強磁性Ising模型をはじめ、Potts模型、およびボンドパーコレーション、そしてsurface codeの理論的性能限界についてスピングラス模型を経由して評価したという話.
スピン模型の解析法としてもユニークであり、量子誤り訂正符号の性能評価としての側面も持ち、ちょっとだけ面白い内容である.
Fluctuation Theorems on Nishimori line
Masayuki Ohzeki
submitted to PRE
e-arXiv:cond-mat/1209.1871
京都水族館のひとこま温度を変えることで最適化問題を解く汎用解法であるシミュレーテッドアニーリングとJarzynski等式を組み合わせたポピュレーションアニーリングという手法がある.これをスピングラス模型に巧みに適用すると、思わぬところの平衡状態の性質を調べることができるという関係式を以前発見した.統計的にはもっともらしいところからは外れていて、単純なサンプリングではどうもうまくいかないようだが、レアイベントを効率的に生成させる試みはいくつかあって、そう簡単に降参しなくてもよい.その実現の第一歩として、関係式の背後にある数理関係を捉えることを目的とした研究を行った.結果として揺らぎの定理として知られる、仕事のレート関数の対称性の存在を暴いた.ついでながら、いわゆる西森線のゲージ対称性による平衡状態の解析は、現代でいうところの揺らぎの定理が背後にあったから可能であったことがわかった.これまでは期待値の議論が主だったわけであるが、分布の特徴量を捕まえることでスピングラス模型の相図の構造に迫ることが出来るのではないか、と思っている.
Measurement-Based Quantum Computation on Symmetry Breaking Thermal States
Keisuke Fujii, Yoshihumi Nakata, Masayuki Ohzeki and Mio Murao
submitted to Phys. Rev. Lett.
e-arXiv:quant-phys/1209.1265
久々に黒板でしゃべり続けた一日.ローマから帰国した後に、近畿大学での量子情報と統計力学に関するシンポジウムがあり、「スピングラス~統計力学と量子情報の架け橋」と題して長々とその基礎部分について黒板を使った集中講義形式で講演を行った.その際に参加していらした阪大の藤井啓祐氏、東大村尾美緒研の学生である中田芳史氏との共同研究である.まだまだ日本では領域横断型研究の舞台のひとつとして成熟しきっていない感のある量子情報分野の中で、ひときわ輝いたアクティビティを見せる2人との共同研究は非常に有意義であった.これはその第一弾.適切な測定を量子状態に行う事で所望のユニタリ変換を施すMeasurement based quantum computationの新方式に関する提案とその物理的性質について議論した内容となっている.本質的に多体系の性質を扱うため統計力学屋の仕事が大きく貢献するところである.相互作用のないシステムでは自由度は熱揺らぎで不安定であるが、相互作用を導入する事で秩序を持つ.その秩序を持たせることと、所望のユニタリ変換が行われている事を両立する巧みな構成法を発見した.それによりエラーが発生しにくい安定な量子計算方式を提案する事が出来たという内容である.
Nonequilibrium work relation in macroscopic system
Yuki Sughiyama and Masayuki Ohzeki
submitted to J. Stat. Mech.
e-arXiv:cond-mat/1110.2088
どの道をあなたは選ぶ.熱力学第二法則は不等式の形で表れる.それの一般化とされるJarzynski等式はその名の通り等式の形で仕事と自由エネルギーの関係を確かにまとめている.Jarzynski等式自体には,その成立可否については異論はない.しかしはたしてこれは”熱力学”第二法則の一般化足り得るのだろうか?という疑問を統計力学の根本原理から見つめなおした話.
統計力学は大偏差原理に基づいた,レート関数の性質を利用した枠組みである.
レート関数の零点が1点である時に,いわゆるアンサンブル平均による評価が正当化される.
それはレート関数の零点の情報が実現値として観測されるためである.
Jarzynski等式はアンサンブル平均の議論に過ぎない.そのアンサンブル平均が是正されるのかどうかの議論が欠けている.
この論文ではレート関数と揺らぎの定理の議論のみから第二法則を導く事が出来る事を示した.極めて健全な統計力学である.
論文内ではさらにレート関数の構造に注目して,準安定状態の存在する場合についても議論を広げている.ガラス転移の性質の中で注目されている多数の準安定状態が存在するような問題の基本的な性質を描き出しているという点で今後の展開が楽しみである.