Langevin dynamics neglecting detailed balance condition
Masayuki Ohzeki and Akihisa Ichiki
Phys. Rev. E 92, (2015) 012105
arXiv:cond-mat/1307.0434
穏やかな流れの中にも意味がある諏訪藤堂法と呼ばれる詳細釣り合いの破り方は、遷移行列の対角成分を無くすように非対角成分をいじることにある.それをIchiki-Ohzeki2013では、固有値のシフトを引き起こすので、定常状態への緩和を早める効果があることを示した.同様のことはフォッカープランク演算子に対しても行うことが出来る.定常状態を自分の好みのものにしたまま、そのような操作が可能であることを発見したのが昨年.査読者により丁寧に閲読をされてしばらく本質的な進展もなさそうなので、一旦あきらめたのだが、再度共著者との議論の中、対応するランジュバン方程式が存在することに意外性を見いだした.定常状態の形をそのままに人工的な力を導入することが可能なのだ.定常状態へとても行き着かないようなエネルギー障壁が多くあるような系でも、この力を利用すれば、系はかき混ぜられて定常状態へと緩和する.その緩和はフォッカープランク演算子に直したときに加速されることが保証されている.シンプルで汎用性が高いアルゴリズムの完成である.諏訪藤堂法のように、ちょっとした工夫ですっごくいい方法です.
ちょっとすごいことに、2次元のXY模型特有のKT転移、KT相内での臨界緩和、この方法でその臨界緩和からの早い離脱が可能である事が分かりました.
つまりこの方法で、多くの数値計算屋さんの頭を悩ませてきた、臨界緩和にまつわる緩和時間が長大になる問題が解消できうる事が分かったのです.単純すぎる割に、ご利益がありすぎる.もう少し発展の幅もあるので今後に期待します.
(旧タイトル:Acceleration without Detailed Balance Condition from Perspective of Nonequilibrium Behavior)
Inverse Renormalization Group Transformation in Bayesian Image Segmentations
Kazuyuki Tanaka, Shun Kataoka, Muneki Yasuda,
and Masayuki Ohzeki
J. Phys. Soc. Jpn. 84, 045001 (2015)
arXiv:1501.00834
ビッグデータを扱うためには、計算量の縮減が重要である.そして本質の抽出が大事である.
幸い統計物理学には両者の性質を持つ操作は従来より深く議論され理解されてきた.「繰り込み群」である.
本研究では、実空間繰り込み群を行うことで、画像の本質部分を抽出したのちに、画像の生成モデルを学習した場合に、
元々の画像そのものを学習する場合とどのように違いが現れるのかを議論した.
実空間繰り込み群はお手の物なので、主に物理側からの貢献をすることが出来て、個人的な興味においても満足度が高い.
これから個人的にやった仕事のいくつかにも、繰り込み群や同様のアイデアを適用していきたい.
High-precision phase diagram of spin glasses from duality analysis with real-space renormalization and graph polynomials
Mayuki Ohzeki and Jesper Lykke Jacobsen
J. Phys. A: Math. Theor. 48 095001 (2015)
arXiv:1410.0166
今までの曇が嘘だったかのような晴れやかな結果.でもまだ登るべき山場はある.久々登場する論文はcore to coreの滞在型プログラムで派遣された2月のフランス訪問で狙い通り進めることの出来た研究.
スピングラスにおける双対変換+繰り込み理論の決定版.
今までとりあえず数値計算と一致しているし、まぁいいんじゃないかなぁ〜と思われた理論.ついに厳密解をしっかりととらえました.今までの理論をベースにちょっとした変更を加えるだけでした.
いわゆるOnsager解からランダムネスによる効果でへたれていく強磁性相の様子について、厳密解がありましたが、それを見事に再現することが出来ました.そしてついに低温の相境界についても攻めています.今までは非自明な結果は出ないと思われていましたが、そうではなくてちゃんと意味のある結果が出そうだという結論がでました.
次なる目標は非自明な結果をまさに計算することですが、そう遠くはないと思います.
しかも双対変換+繰り込み理論は量子情報の誤り訂正符号で使われている式に相当するものを再現しており、深い物理の縁も感じさせます.今後にも大きな期待が広がる大発見です.
Detection of cheating by decimation algorithm
Shogo Yamanaka, Masayuki Ohzeki and Aurelien Decelle
arXiv:stat-ml.1410.3596
J. Phys. Soc. Jpn. 84, 024801 (2015)
Aurelienも満足した銀閣寺散策SKE2013と称して、学部生でも英文論文投稿しようという企画のもと、京大工学部三回生用の演習授業「数値計算演習」略してSKE(日本語で)の私が担当していた「ベイズ推定」の発展課題に端を発する研究.
京都大学の学内研究発表会で優秀研究賞をいただくなど注目を浴びた研究を、満を持して公開する.
TOEFL等で利用されている、被験者が回答した答案をデータとして学習を行うことで、被験者の能力を推定する確率的推論のひとつ、項目応答理論を拡張することで、被験者間のカンニングの検出を行おうという問題を扱った.
疑似最尤法を使って、学習するのが最も基本的でリーズナブルなやり方であるが、非常に多くのデータを必要とする.
そんな中、ローマ大学のポスドクであるAurelien Decelleとの議論により、スパース性に注目した新展開をみせた.
これにより必要なデータの数を逓減してなおかつ精度のよい推論法を利用することで、カンニングの精度良い検出と、被験者の能力も正確に求める手法を提案することに成功.その性能も検証した.
京都大学工学部三回生の実力だと、世界を相手にすることが出来るいい例である.
実際のデータでの実験も視野にいれつつ、今後の発展及び他の問題への適用も期待できる内容である.
朝日新聞大阪本社版(34面)にて研究成果が報道されました!
デジタル版(人工知能でカンニングを発見 京大などがプログラム開発)
1/19 TBSテレビ 【あさチャン!】
<あさチャン!朝刊チェック>「人工知能使いカンニングを発見」
京都大学広報(機械学習によるカンニングの検出技術の開発)
人民日報:2015年1月21日
人民網日本語版(日本の専門家、カンニングを発見するプログラムを開発)
人民網中国語版(日本专家利用人工智能开发新程序 使作弊无处可逃)
中国新聞網(日本专家利用人工智能开发新程序 使作弊无处可逃)
私塾界(人工知能でカンニングを発見 京大などのグループ)
財経新聞:2015年1月25日(京大、機械学習によってカンニングを自動的に検出する技術を開発)
リセマム(機械学習の手法でカンニングを自動的に検出…京都大の研究成果)
Newton:2015年2月26日発売4月号Focusにて掲載.
Violation of detailed balance accelerates relaxation
Akihisa Ichiki and Masayuki Ohzeki
Phys. Rev. E 88, 020101(R) (2013)
e-arXiv:cond-mat/1306.6131
かき回して目標に向かうゴンドラ.マルコフ連鎖モンテカルロ法と呼ばれる期待値を確率的に計算する技法はきわめて一般的に通用する汎用的手法である.その高速化は、広範な分野への影響があり重要な研究課題となる.理論的な根底部分ではマスター方程式を用いており、そこで必要な条件を満たす十分条件として詳細釣り合いを仮定することが多い.しかしながら詳細釣り合いを破る試みがいくつかなされており、諏訪・藤堂法をきっかけとして日本では研究の興味が広がったように感じる.この詳細釣り合いを破るということが何をもたらすのだろうか?という興味から、まずは数理的に目的とする定常状態に早く行き着くメカニズムを明らかにして、その証明を与えた.物理的な側面については続報となる研究をしているところで近日中に公開する予定.マルコフ連鎖モンテカルロ法では基本的には無情報な一様分布から、情報を持ったある特定の分布を生成させるのでエントロピーを下げることになる.しかしながら効率よくあらゆる遷移状態候補の中から、分布を形成させるためにはある程度の駆動力が必要で、「かき混ぜる」工夫がいる.いわば「かき混ぜる」と早くなることを示したに過ぎないが、どうして早くなるのかがわかれば、工夫の仕方も見えてきて、今後の発展につながる基礎となることが期待される.
Nonequilibrium work relation in macroscopic system
Yuki Sughiyama and Masayuki Ohzeki
J. Stat. Mech. (2013) P04012
e-arXiv:cond-mat/1110.2088
どの道をあなたは選ぶ.熱力学第二法則は不等式の形で表れる.それの一般化とされるJarzynski等式はその名の通り等式の形で仕事と自由エネルギーの関係を確かにまとめている.Jarzynski等式自体には,その成立可否については異論はない.しかしはたしてこれは”熱力学”第二法則の一般化足り得るのだろうか?という疑問を統計力学の根本原理から見つめなおした話.
統計力学は大偏差原理に基づいた,レート関数の性質を利用した枠組みである.
レート関数の零点が1点である時に,いわゆるアンサンブル平均による評価が正当化される.
それはレート関数の零点の情報が実現値として観測されるためである.
Jarzynski等式はアンサンブル平均の議論に過ぎない.そのアンサンブル平均が是正されるのかどうかの議論が欠けている.
この論文ではレート関数と揺らぎの定理の議論のみから第二法則を導く事が出来る事を示した.極めて健全な統計力学である.
論文内ではさらにレート関数の構造に注目して,準安定状態の存在する場合についても議論を広げている.ガラス転移の性質の中で注目されている多数の準安定状態が存在するような問題の基本的な性質を描き出しているという点で今後の展開が楽しみな内容である.
所々の事情でアクセプトまで1年3ヶ月かかったが,後半についた査読者からは非常に高評価を得た.長くかかっただけに思い入れも強いし、共著者との長い深い議論のおかげで分野の理解度も深まった意味で、自分の今後の展開が楽しみである.
Measurement-Based Quantum Computation on Symmetry Breaking Thermal States
Keisuke Fujii, Yoshihumi Nakata, Masayuki Ohzeki and Mio Murao
Phys. Rev. Lett. 110, 120502 (2013)
Selected as Editor's Suggestion.
e-arXiv:quant-phys/1209.1265
久々に黒板でしゃべり続けた一日.ローマから帰国した後に、近畿大学での量子情報と統計力学に関するシンポジウムがあり、「スピングラス~統計力学と量子情報の架け橋」と題して長々とその基礎部分について黒板を使った集中講義形式で講演を行った.その際に参加していらした阪大の藤井啓祐氏、東大村尾美緒研の学生である中田芳史氏との共同研究である.まだまだ日本では領域横断型研究の舞台のひとつとして成熟しきっていない感のある量子情報分野の中で、ひときわ輝いたアクティビティを見せる2人との共同研究は非常に有意義であった.これはその第一弾.適切な測定を量子状態に行う事で所望のユニタリ変換を施すMeasurement based quantum computationの新方式に関する提案とその物理的性質について議論した内容となっている.本質的に多体系の性質を扱うため統計力学屋の仕事が大きく貢献するところである.相互作用のないシステムでは自由度は熱揺らぎで不安定であるが、相互作用を導入する事で秩序を持つ.その秩序を持たせることと、所望のユニタリ変換が行われている事を両立する巧みな構成法を発見した.それによりエラーが発生しにくい安定な量子計算方式を提案する事が出来たという内容である.
Duality analysis and its application: bond percolation
Masayuki Ohzeki
Phys. Rev. E 87, 012137 (2013)
e-arXiv:cond-mat/1211.1521
オーストリアの空の下思いついた結果.
双対変換応用編.
これまでスピングラス系の応用を念頭に理論として組み上げてきた繰り込み双対変換.
その新展開である.
古くから知られるパーコレーションと呼ばれる感染症や森林火災などの簡単な数理模型が見せる相転移現象が起こる転移点に関する厳密解を繰り込み双対変換から導出したという話.
解公式自体はいくつかの状況証拠とともに予想、および検証されてきたが、その厳密性に関する議論を繰り込み双対変換によって行った.
繰り込みとあるように解析するスケールを大きくとることによって、漸近的に厳密解に近づく理論であるが、小さなスケールからすでに固定点が見えていて、その固定点が転移点公式に相当していることがわかった.物理としても美しいし、結果としても非自明.
また異方性のあるPotts模型の解析に応用したということで、スピングラス模型以外でも繰り込み双対変換が有効であることを示した一例ともなっている.
Robert M. Ziffが熱心にコメントや議論をしてくれたおかげで、モチベーションはおろか理解も深まり、一気に仕上げることが出来た.
実は修士課程からPotts模型、パーコレーションの問題というとZiffさんの論文が引っかかったことから非常に気になる存在の人だったが、この成果で憧れの人と急接近することとなって感慨深い.個人的にF. Y. Wuさんともやり取りをしており、特集号には遅れたものの彼の大きな貢献の一部としてささげたい.